『マルホランド・ドライブ』

私は何を見ていたのだろうか。全く理解できない。『マルホランド・ドライブ』(2001年)は、そのような映画だ。陳腐な表現を使うなら、この映画はカルト的なものである。不連続な物語は最後まで収束しない。ただ放置され、投げ出されるだけだ。パズルのように、地道に組み立てていくしかない。組み立て方は自由で、すべては観る者に委ねられている。正しい組み合わせは存在しない。非常に手ごわい映画である。

この映画は極めて厄介である。話すにしても、どこから話せば良いのか見当がつかない。これは「現実」であり、「夢」でもあり、「空想」でもある。これらの要素を一つの作品、一つの物語として抽出したものが『マルホランド・ドライブ』である。映画というより抽象芸術に近い。その映像は、監督デヴィッド・リンチの頭の片隅を覗き見た感じがする。監督のアイデアを不連続な映像としてスクリーンに投影したような奇妙さがある。この映画は未完成であるとも言える。アイディアの断片を観客が繋ぎ合わせて、映画というパズルを完成させる。

題名の『マルホランド・ドライブ』は、映画の都ハリウッドに実在するロサンゼルス北部の峠道を指す。ショービズ界の人々が集まる「ハリウッド・ヒルズ」を通り、西側のウッドランド・ヒルズまで続く曲がりくねった道路だ。片側一車線のこの道路は、走り屋スポットとしても知られ、スリルを求めるスピード狂たちの集まり場でもある。「No Stopping Any Time(絶対に止まってはいけない)」という標識は守られるべきだ。そうでなければ事故を避けられないだろう。

危険が伴う一方で、この道路には別の魅力がある。それは夜景だ。眼下に広がるロサンゼルスの夜景は息を呑むほど美しい。マルホランド・ドライブを行き交う人々の中には、この夜景を求めて訪れる者も少なくない。しかし、この街には表面的な美しさと裏腹に深淵な「闇」が潜んでいる。

一見すると無関係な物語に見えるこの映画だが、パズルを完成させればハリウッドの虚栄が浮かび上がってくる。本作が描く奇妙な物語は、近年『アンダー・ザ・シルバーレイク』(2018年)といったカルト的作品に受け継がれている。

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