『ストレイト・ストーリー』

デヴィッド・リンチ監督の『ストレイト・ストーリー』(1999年)は、彼のフィルモグラフィーにおいて驚くほど異質な作品として紹介されることができます。なぜなら、『イレイザーヘッド』(1977年)の衝撃を皮切りに彼の長編映画を見れば、本作がいかに異物的であるかがすぐに理解できるからです。

短編映画作家としてのキャリアを経て、「カルトの帝王」とも評されるデヴィッド・リンチは、不安と恐怖、そして禍々しい変態性を含むカルト的作品を次々と世に送り出しています。それらは一般的に理解し難い作品ばかりですが、特定の観客層を強く惹きつける何かが存在しています。

リンチの作品―映画だけでなく、彼の絵画や音楽も―に対する多くの評論では「難解」や「奇妙」といった言葉が使われています。しかし、ある老人の旅を描いた『ストレイト・ストーリー』には、そうした異様さを感じさせる言葉はほとんど当てはまりません。この作品は極めてイノセントで牧歌的な雰囲気を持ちながらも、リンチ特有のエスプリを効かせた直截な世界観を構築しています。

アメリカ合衆国で公開された際、ブエナビスタ(ウォルト・ディズニー)が配給を担当し、MPAA(アメリカ映画協会)からは全年齢対象の「G」レーティングを受けました。これは、本作が過去のリンチ作品とは一線を画す「別物」であることを示しています。この映画には奇怪な象男も、女子高生の死体も、夢と現実の交錯も描かれておらず、禍々しさは微塵もありません。

物語はアメリカ・ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された実話に基づいており、全米で話題となりました。舞台はアイオワ州ローレンスの穏やかな農村部です。ここで娘ローズ(シシー・スペイセク)と暮らすアルヴィン・ストレイト(リチャード・ファーンズワース)は、不摂生が原因で足腰が弱り、杖なしでは歩けません。そんな中、長年絶縁状態だった兄ライル・ストレイト(ハリー・ディーン・スタントン)が脳卒中で倒れたという知らせが届きます。アルヴィンは兄ライルと和解しようと決意し、再会を果たすために旅立ちます。

身体が不自由なアルヴィンにとって、唯一の交通手段は乗用芝刈り機でした。彼は時速約5マイル(約8キロメートル)で動く乗用芝刈り機に乗り、遠く離れた兄ライルのもとへと向かい、人生を振り返る壮大な旅に出ます。

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