過去と現代を交差するラストにどきりとする『ちいさな独裁者』

© 2017 - Filmgalerie 451, Alfama Films, Opus Film
第二次世界大戦が終わりを迎えて約75年が経過するという現在、ぞっとするようなストーリーの映画が到着しました。その名も『ちいさな独裁者』(2017)。終戦間近のドイツで実際に起こった出来事を基に製作されたというのだから驚きです。何が彼を変貌させたのでしょう……時代でしょうか、それとも?
『ちいさな独裁者』あらすじ
1945年4月。終戦間近で敗戦を悟り軍規違反が相次ぐドイツ。ヴィリー・へロルトは命からがらに所属していた部隊より逃走、脱走兵となって寂れた街を徘徊していました。寒さと飢えで死にそうになっていたところに偶然か必然か、軍用の乗用車を発見、誰もいないことを確認して中へ忍び込むとスーツケースがありました。
一緒にあった食糧を食べながら開けると、空軍大尉の軍服一式が入っており、寒さをしのぐためコートや靴を履き替えてひとり、上官ごっこをしていたところにひとりの兵士が現れ……。
なぜ騙せていたのか?――へロルトの魅力
のちに連合軍に捕まり死刑執行の時、彼は弱冠21歳という衝撃の年齢でした。キャッチコピーにもあるように、へロルトに合わせて作られていない軍服は後半あたりまで“丈が長い”状態で少し不格好ですし、誰が見ても「空軍大尉だ!」とピンとくるような貫禄は持ち合わせていないように思います。
では何がへロルトを「エムスラントの処刑人」という異名がつくほどの誰にも嘘がバレずに行うことができたのかというと、彼自身の魅力とも呼べる才能がまず挙げられるのではないでしょうか。
他の大尉に身分確認のために「軍隊手帳を見せろ」と言われても咄嗟に回避できるような言葉の選び方、“借り物の権力”であるというのにそれを感じさせないほど堂々とした立ち振る舞いが「できてしまった」へロルトの才能。これほどまでうまく真似ができてしまったら民間人などは疑う余地もなかったのかもしれません。
なぜ騙せていたのか?――時代背景
もうひとつわたしが考えた点は時代背景です。あらゆる物資が不足して各地で曖昧な情報と混乱が渦巻いていたであろう当時、確認などの伝達は今よりもずっと遅かったでしょうしコネや権力のせいで隠されていた真実が多々あるのではないでしょうか。
また、多くの不満を抱えている兵士や部隊から外れてしまい行き場もなく時間を持て余しているような兵士たちなど、敗戦濃厚で疲弊しきっていた彼らに対して言葉巧みに自分の部隊へと誘うへロルトはいっそ一種の希望に見えたのかもしれません。
へロルトに関して薄々気がついていたと思われる兵士も本編を観ているとお気づきになるかと思いますが、あえて「止める」という選択肢はしていませんでした。そこで彼を止めておけばこんな残虐な変貌を遂げる未来はなかったかもしれませんね……。