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現代社会のゆがみ、フェイクニュースが伝える恐怖 ── 女子高生の死を描く、衝撃作『飢えたライオン』

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©2017 The Hungry Lion

『子宮に沈める』(2014)で児童遺棄問題を扱った緒方貴臣監督の最新作。フェイクニュースによって日常が崩壊していく女子高生の姿とSNS時代の問題を描く。

この記事には、映画『飢えたライオン』のストーリーに触れる内容が含まれています。なるべく映画鑑賞後にお読みください。

『飢えたライオン』あらすじ

©2017 The Hungry Lion

主人公・杉本瞳(松林うらら)の通う高校の担任が未成年との淫行容疑で逮捕されてしまう。後日、担任と女子生徒が淫行している様子と思われる動画がネットに流出する。女子生徒の顔にはモザイクがかけられていたが、なぜかその女子生徒が瞳ではないかといううわさが流れだす。

瞳は美人で、SNSにたびたび投稿をして一部で人気になっていた存在だった。彼女が淫行相手だというデマはどんどん拡散され、家族や彼氏からも疑いの目を向けられるようになる。ショックのあまり、彼氏の先輩にあたる男2人に相談をするも、弱みに付け込まれ暴行されてしまう瞳。絶望した彼女は自殺という選択をしてしまう。

しかし、「美人女子高生疑惑の末に自殺」という恰好のスキャンダルにマスコミが食いつき、事態はさらにグロテスクな様相を呈していく……。

禍々しいカメラワークと、自然なまでの没入感

©2017 The Hungry Lion

恐ろしすぎる映画だった。人の弱みにつけ込む奴ら、それを嬉々として報じるマスコミ。そして、全編にわたり“隠し撮り”のようなカメラワークに瞠目し、その映像を楽しんでしまう自分たち、すべてが恐ろしい。

ちなみに、映像のほとんどは固定カメラによる定点撮影なのだが、数カ所だけカメラが動くシーンがある。それがどんなシーンか、注目するとより興味深いはずだ。

しかし、カメラワークだけではない。登場人物の会話の自然さだって、この“覗き見感覚”に寄与している部分だ。ワンシーン、ワンカットが多いせいか、相当リハーサルしたのでは、と思わせる部分もある。

そして、会話による“説明台詞”がゼロで、映像や会話の端々を見ると、状況だったり人物説明をする自然な流れが本当に見事だ。

母子家庭であることの説明に、“作り置きのチャーハン”や“おじさん”と呼ばれながら同じ食卓を囲む人を入れてきて描写したり、主人公がバスケ部を辞めた理由を、最初は本人に見逸らせておいて、1人でシュート遊びをしている時の“下手さ”で説明したり、といった具合だ。

また、彼氏の先輩に車中でレイプされているのを、隣に停まった車から降りた酔っ払い連中の反応で示唆したりと、的確な手腕を見せてくる。おかげで、過激な描写がなくてもえげつないことが行われているのがひしひしと伝わってくるのだ。

そして、主人公が自殺してからさらに恐ろしくて不愉快な話になっていく。自殺直後の全校集会で、竹中直人演じる校長が全校生徒に話す内容が主人公が死に至ることになった理由に対して、完全に的外れな警鐘を鳴らしているのが皮肉だ。

マスコミもここぞというばかりに騒ぎ立て、死人に口なしとばかりに勝手に瞳の人物像を作り上げていく。全体的に感じたのは、人は誰かに見られることで主体的な物じゃなく、客体化してしまうということだ。他人に見られることで、自分の身体や人生が、自分だけの物ではなくなってしまう、ということか。

アンリ・ルソーの名画に見る、主犯と共犯の関係性

©2017 The Hungry Lion

タイトルの『飢えたライオン』というのはルソーの有名な絵画の名前だ。飢えたライオンがカモシカを食い殺し、周りにいるヒョウや鳥たちが食べ残しのおこぼれを狙っている様をとらえた名画である。

フェイクを流した主犯やレイプ犯がライオンで、それを好奇心の目で捉えたマスコミや大衆が周りにいるおこぼれを狙う動物たちという意味で、この絵画をタイトルにしたのか。

そして我々観客も、飢えたライオンによるおこぼれを楽しんだ共犯だと言わんばかりに、瞳が劇中唯一のカメラ目線でこちらを見つめて映画は終わる。

映画というのは観客が物語を一方的に眺めるメディアだが、たまに映画側からこちらを見つめ返されるという展開があると、とてもスリリングである。

主人公の名前が瞳っていうのも、「見る見られる」がテーマの話としては示唆的だ。能動的に見ると本当に掘り下げがいのある映画だった。

About the author

madwhite

映画好きの平凡な会社員です。僕なりの考察と感想を書かせていただきます。 とにかく素晴らしい映画を作ってくれる映画界の才人たちに感謝。そんなに素晴らしくない作品の作り手たちにも感謝。公開してくれる人たちにも感謝。 どんな映画でも必ずいいところがあり、問題点もあると思うのでそこは正直に思ったままを書かせていただきます。