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日本映画史に輝く名バイプレーヤー、大杉連の最後の主演作『教誨師』

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©「教誨師」members

今年初めに亡くなった名バイプレーヤー、大杉漣の最初のプロデュース作品にして最後の主演作。

先進国でどんどん廃止されてきている死刑制度を未だに残している日本の司法。死刑囚が処刑されるまでの間に彼らに道徳を教え救済を与えるキリスト教の牧師が“教誨師”という存在である。

本作は、そんな教誨師を主人公に様々な問題提起をしてくる一作だ。

この記事には、映画『教誨師』のストーリーに触れる内容が含まれています。なるべく映画鑑賞後にお読みください。

『教誨師』あらすじ

©「教誨師」members

初老の牧師・佐伯は教誨師を始めて半年。とある死刑囚だけの独房がある刑務所にボランティアで通っていた。そこには全く話そうとしない中年男・鈴木、お喋りな大阪のおばちゃん・野口、2児の父で気弱な男・小川、収監前はホームレスで学のない老人・進藤、気さくなヤクザ・吉田、博識で挑発的なニヒリストの青年・高宮。

佐伯は死刑囚である彼らにも常に真摯に丁寧に接し、徐々に心を開かせていく。しかし高宮だけは挑発的な姿勢を崩さず、佐伯やひいてはキリスト教のの倫理観を揺らがせるような問いを次々と投げかけてくる。

そしてほかの死刑囚も、犯行の動機、世間に語っていない真実を語りだす者もいれば、死への恐怖で取り乱す人間も現れる。そんな中、12月26日にとある1人の死刑囚の刑執行が決定し……。

複雑な人間性

©「教誨師」members

死刑制度を扱っているがテーマとしては「人は一面では見られない」ということではないか。

まず、死刑囚というこの世でも一番異質に思える存在がほとんどいたって普通で、我々と同じことを考え普通に幸せに暮らすことを望んで人生を送っていたことを会話や細かい演技の積み重ねで見せていく。一番異常に見える高宮も、子供時代に感じた社会の欺瞞性・偽善性への疑問を未だに持っている存在で彼のような人間が出現するのも何らおかしなことではないように思えてくる。

何より彼は劇中で一番博識で弁も立ち、誰もが少しは魅力や興味が沸くような存在として描かれている。そして、物語が進むにつれて普通の人に見えた5人の死刑囚はやはり異常な一面も見えてくる。

完全なストーカー体質人間、気さくなようで自分が一方的に話すのが好きで人の発言に対しては反論ばかりしているくせに反論されるとすぐキレるオバさん、ヤクザなのに一番死への覚悟が決まっていない男。そして犯行に情状酌量の余地があることを告白する男、一番学がないように見えて意外な知性や倫理観を見せる男。

そして、超然的存在に見えた高宮は人間的な一面、脆い精神を見せてくる。さらに、佐伯本人も話の進行とともにバックボーンがわかっていき、ただの人のいい牧師ではない複雑な人間性を見せていく。彼にも消えない罪がありそれと戦っていたのだ。

中盤にその罪と向き合い、高宮の倫理観を揺さぶるような問いにも、おためごかしではない自分なりの答えを出せるように成長を遂げる。

遺作にふさわしい堂々たる映画

そして、キャラクター描写だけでなく映画全体の演出でも途中から思ってもみなかった手法を放り込んでくる。

まさかの超自然的現象が起きたり、ずっと面会室の中だけで話が進むのかと思いきや、唐突に回想シーンをはさんでくる。まるで「こんな感じの映画か」と高をくくり始めていた我々の観念をひっくり返すかのように。

そしてとあるキャラクターがキリスト的存在として一番最後に佐伯に、いや我々観客に問いをぶつけてくる。彼は、無知ゆえに神聖な存在に見える。そして人類全体の罪を背負って死んで行くかのように見える。解釈が幾重にもできる傑作。名優大杉漣の遺作にふさわしい堂々たる映画だった。

映画『教誨師』は2018年10月6日(土)より、有楽町スバル座、池袋シネマ・ロサ他にて全国順次公開中。

About the author

madwhite

映画好きの平凡な会社員です。僕なりの考察と感想を書かせていただきます。 とにかく素晴らしい映画を作ってくれる映画界の才人たちに感謝。そんなに素晴らしくない作品の作り手たちにも感謝。公開してくれる人たちにも感謝。 どんな映画でも必ずいいところがあり、問題点もあると思うのでそこは正直に思ったままを書かせていただきます。