1. TOP
  2. REVIEW
  3. リドリー・スコットが描く世界中の注目を集めた誘拐事件『ゲティ家の身代金』

リドリー・スコットが描く世界中の注目を集めた誘拐事件『ゲティ家の身代金』

By -

© 2017 ALL THE MONEY US, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

2018年5月公開の米国スリラー映画。1973年、イタリアのローマで実際に起きた大富豪ジャン・ポール・ゲティの孫誘拐事件を基に、巨匠リドリー・スコットが映画化。クリストファー・プラマー、そしてミッシェル・ウィリアムス等実力派の役者達が出演している。

当初、石油王ゲティを演じたケヴィン・スペイシーがスキャンダルにより降板したため再撮影、更にその際に生じた出演者たちのギャラを巡ってワイドショーで議論になるなど、公開前に注目が集まった。

『ゲティ家の身代金』あらすじ

© 2017 ALL THE MONEY US, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

大富豪の祖父を持つ16才のポール・ゲティ三世は、家路に向かう途中突然車に押し込まれ誘拐される。数日後、犯人から母親ゲイルに連絡が入り、1700万ドルと言う前代未聞の身代金を要求される。しかし、石油王のジャン・ポール・ゲティは、加熱するマスコミに対し「1ペニーでも払えば、14人いる孫は全員誘拐される。一切払わない」と述べた。必死な母親の努力は実を結ばず3ヶ月を過ぎた頃、ポールの身に危険が迫る。

リドリー・スコットの名作

© 2017 ALL THE MONEY US, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

予告編で流れる曲はゾンビーズの大ヒット曲「ふたりのシーズン」で、ゲティが孫の身代金を払わないと断言した場面にインパクトを持たせている。一方の本編では、二転三転する誘拐事件のダイナミズムと解決に向けて進展しないフラストレーションをダニエル・ペンバートンの音楽に乗せて、まさに戯曲のように描いている。

リドリー・スコットの独創的な演出は、45年前に起きた史上最高額の身代金を巡る誘拐事件を単なるクライムサスペンスに留めず、洗練されたスリラーとして完結させている。急きょキャストされた名優クリストファー・プラマーは、世間が冷淡なケチだと揶揄した大富豪を演じ、カリスマ性とチャーミングな魅力を巧みに表現し人間性に光を当てる事で絶賛された。

そして、特筆すべきは、母親のゲイルと交渉する誘拐犯、チンクアンタに扮するフランス人俳優のロマン・デュリスである。狡猾で非情な中に併せ持つ繊細な感情の起伏を見事に演じ存在感が際立つ。ジャック・オーディアール監督のフランス映画『真夜中のピアニスト』(2005)で主役を務め、世界的に高い評価を得ている。

ジャン・ポール・ゲティの素顔

© 2017 ALL THE MONEY US, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ジャン・ポール・ゲティの資産については様々な数字が報道されているが、正確な額はゲティ自身も当時把握していない。題材について徹底的に調査するリドリー・スコットは、誘拐事件が起きた同じ年に勃発したオイルショックにより、ゲティは1日で身代金の要求額1700万ドルを稼いでいたと語る。

実際、最終的に400万ドルまで身代金は減額され、ゲディは税控除できる220万ドルは出したが残りはポールの父親である麻薬中毒の息子に年率4パーセントの利子で貸し付けた(未返済)。また、劇中も登場したゲティ邸宅の公衆電話ボックスは、訪れた客人の電話代をゲティが持ちたくなかったというのは有名な話だ。

しかし、身代金を払えば、14人の孫全員が金目当てに誘拐されてしまうだろうと言うゲティの弁は冷静な分析だ。頂点を極めた男は日々16時間働き、大学を出て2年後には100万ドルを稼ぎ出した。8ヶ国語を操り、3キロ余り歩くことを日課として、健康食を心掛け食事は33回咀嚼。70年代、ゲティは世界一の大富豪となりギネスに登録されるが、日常的にたくさんの人が金を無心した。

「誰が真の友人かは時間で測ることにしている。長い付き合いだが、彼らは一度も私に何かねだったことなどない」ゲティが生前インタビューで残した言葉である。家族の絆を持たない大富豪が殆ど面識のない孫の命を救うために出した身代金は、彼にとって端金ではなかったのかもしれない。

About the author

yukojuni

バンクーバー在住のライター。東京出身。結婚前は会議の同時通訳者で専門分野は金融。執筆は洋画と海外ドラマが多く、幅広い作品を独自の視点で解説。無類の動物好き。座右の銘は一緒に暮らす動物は最後まで慈しみ面倒を見る。