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巨匠エンニオ・モリコーネの美しいスコアが響く、親子の絆を描いた反戦ドラマ『戦場のブラックボード』

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(C) Nord-Ouest Films

戦争映画は大きく分けて、二つに分類することができる。ひとつは、兵士の視点から見た戦争の愚かさ。もうひとつは、庶民の視点から見た戦争の理不尽さだ。本作は後者に位置する。どちらも戦争がもたらす凄惨な現実を見せているが、全体的なアプローチの仕方は大きく異なる。

映画『戦場のアリア』(2005)でアカデミー賞外国語映画賞ノミネートのクリスチャン・カリオン監督が放つ、父子の絆を描いたフランス・ベルギー合作の反戦映画だ。クエンティン・タランティーノ監督『ヘイトフル・エイト』(2015)で第88回アカデミー賞作曲賞を獲得するなど、高い実績と評価で知られるイタリア音楽界の巨匠エンニオ・モリコーネの美しいスコアも同期し、戦争に翻弄される庶民の生き様が色濃く映し撮られる。

ドイツから逃れた共産主義の父子を軸に、フランスの田舎町から離れることになった民衆たちの逃避行を描く本作。時には残酷なシーンもきちんと取り入れるなど、戦争がもたらす悲惨な運命をしっかりと示した、まさに出色の反戦ドラマだ。

『戦場のブラックボード』あらすじ

(C) Nord-Ouest Films

1939年、ドイツ。ベルギー人である父子、ハンスとマックスはナチスドイツから逃れようとフランスに引っ越すが、ハンスは不法滞在とされて地元警察に逮捕され、マックスはフランスのパ=ド=カレー県の農村に住む女性教師スザンヌに引き取られる。翌年、ナチスドイツの進行開始を受け、パ=ド=カレー県の住民たちは疎開を開始。偶然から脱獄にに成功したハンスは疎開した人々を追って、息子マックスとの再会を目指すが…。DIGITAL SCREEN』より引用

フランス南部を目指した壮絶な旅路

1940年5月、ナチス・ドイツのフランス侵攻により、フランス南部へと疎開していく民衆たちの直向きな姿勢を捉えた戦争ドラマ。史実ではおよそ800万人がフランス北部から町を追われ、南部の地域へと列を成して大移動したそうだ。映画冒頭では、疎開していく人々を映した実際のフィルム映像が挿入される。家財道具を馬車に乗せ、一様に南部を目指す人々の表情には、得も言われぬ恐怖と不安が渦巻いている。

劇中では、この冒頭映像を意識してなのか、フィルムカメラ越しの白黒映像に切り替わる場面が何度かある。俳優たちの不安げな眼差しが現実味を帯びて、まるで当時の映像かと錯覚するほど妙なリアリティが演出されている。

この映画で語られている出来事は、クリストファー・ノーラン監督の映画『ダンケルク』(2017)とほぼ同時期の話である。『ダンケルク』ではイギリス・フランスの連合軍が、迫り来るドイツ軍の激しい追撃によりフランス北端の海岸に追い詰められる様を、ある兵士の視点から描いている。一方、英仏軍が殆ど掃討された内陸の地では、疎開する民衆たちの覚悟がそこにはあった。

本作では、イギリス軍がダンケルクで大規模撤退作戦を決行するという話も登場し、ストーリー的な繋がりも楽しめるのではないか。

村長をリーダーに南部へと疎開する人々だが、その背後からはナチスが徐々に、そして確実に迫りつつあった。シュトゥーカによる爆撃、そして銃撃に次々と倒れる民衆たち。ドイツ軍に襲撃された一家の無残な遺体など、罪なき命が失われていく事実もしっかりと見せている。

子供たちに残酷な現実を見せないようにと、進路を迂回しつつ朗読に気を引くシーンは実に印象的だった。命と平和の尊さを改めて痛感することだろう。

親子の絆を交えた出色の反戦ドラマ

(C) Nord-Ouest Films

物語の軸を成す親子について話をしたい。父・ハンス(アウグスト・ディール)はナチスの思想に反する共産主義者だったことから、秘密国家警察ゲシュタポの魔の手が徐々に迫りつつあった。そんな中、ハンスは息子・マックス(ジョシオ・マルロン)と共に北フランスの田舎町に移り住むことを決意する。

父・ハンスは母国語(ドイツ語)に加え、英語とフランス語の3ヵ国語を操るなど、複数言語に堪能している。息子・マックスも母国語、そしてフランス語で流暢に会話する場面がある。

ドイツ兵に英語を喋らせる近年のアメリカ映画とは異なり、さすがフランス・ベルギー合作というだけあってか、映画は3つの言語が入り乱れる。

ドイツ人であることをひた隠しにする父子は、草原が広がる長閑なフランスの村で静かに生活を送っていたが、ある日、ハンスが不法滞在との理由で地元警察に逮捕されてしまう。この逮捕に至るまでの経緯がイマイチ分かりづらかったり、その後の父子の再会が唐突すぎるなど、まさにご都合主義全開である。素晴らしい反戦映画であることは事実だが、各所で演出の粗っぽさを感じざるを得ない

しかし、親子の絆を描いた本作は巨匠エンニオ・モリコーネの素晴らしい劇伴も手伝ってか、秀作と評価するには充分な仕上がりだった。父と別離したマックスがブラックボード(黒板)にメッセージを残し、父との再会を願う一途な想いがひしひしと伝わってくる。

予算の都合上かCGのチープ感は否めないのだが、そこさえ目をつむれば割ときちんとした作品だ。ドイツ軍の襲撃に乗じて刑務所から脱獄したハンスは、息子を探すべく元の村へと戻ろうとする。部隊を失ったスコットランド兵(マシュー・リス)も参加し、息子が残した黒板のメッセージを頼りにフランスを南下するロード・ムービーの様な雰囲気も。

映画は釈然としない終わり方をするが、妙に暖かい余韻を私たち観客に与えてくれる。

 

映画『戦場のブラックボード』はオンライン上の映画館「デジタルスクリーン」にて上映中。

【デジタルスクリーン】ウェブサイトはこちら

【戦場のブラックボード】上映ページはこちら

※現在、PCのみで視聴可能です。

About the author

Hayato Otsuki

1993年5月生まれ、北海道札幌市出身。ライター、編集者。2016年にライター業をスタートし、現在はコラム、映画評などを様々なメディアに寄稿。作り手のメッセージを俯瞰的に読み取ることで、その作品本来の意図を鋭く分析、解説する。執筆媒体は「THE RIVER」「海外ドラマboard」など。得意分野はアクション、ファンタジー。