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無口なヤツほど怒ると怖い ― ゴヤ賞に輝いたスペイン発の傑作スリラー『静かなる復讐』

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© La Canica Films S.L.U.,Agosto,la pelicula A.I.E 2016

スペインのアカデミー賞とも称される第31回<ゴヤ賞>において、作品賞、脚本賞、助演男優賞、新人監督賞の四冠に輝き、ほか国内外の映画賞にて多数の賞を獲得した話題作。“怒り”と“復讐”、そして“家族”をテーマに据えた、スペイン発の硬派なリベンジ・スリラーだ。

アルベルト・ロドリゲス監督のスリラー映画『マーシュランド』(2014)で、刑事役で主演を務めたスペインの俳優、ラウール・アレバロの初監督作である本作は、ある日、バーにやってきた物静かな男=ホセの“静かなる復讐”を軸に展開する、ロード・ムービー風の渋い復讐劇に仕上がっている。

『静かなる復讐』あらすじ

© La Canica Films S.L.U.,Agosto,la pelicula A.I.E 2016

アナ(ルス・ディアス)は家族が経営する寂れた町のバーで働いている。息子が一人いるが、夫は強盗事件に関わった罪で服役中。その出所を目前に控え、アナは漠然と将来に対する不安を抱えていた。日々客としてやってくるのは、昼から酒を煽りながら賭け事に興じるような男たちばかり。ある日アナは、そんな客たちに混じって店に来た風変わりな男に気付く。DIGITAL SCREEN』より引用

シンプルなのに奥深い、淡々と進むストーリー

基本的な設定は非常にシンプル、いわば単館系の地味でマイナーな空気が全体に流れている。ストーリーは“章立て”のスタイルで構成されているため、とても明瞭で分かりやすい。しかし、その根底には復讐という単純なワードだけではなく、理不尽で、まるで救いようがない“絶望感”が漂っている。

『ジョン・ウィック』(2014)シリーズや『96時間』(2008)シリーズのように、胸がスカッとする爽快なリベンジ・ムービーとは全く異なるテイストだ。映画は、そんなハリウッド大作のように映像的に派手なスリルはまるで無く、ここが評価の分かれ目になることは安易に想像できる

© La Canica Films S.L.U.,Agosto,la pelicula A.I.E 2016

冒頭、逃走車とパトカーの激しい追走劇を収めた、長回しのシークエンスが映し出される。このシーンは強盗したメンバーを逃がす手はずだった運転手のクーロ(ルイス・カイェホ)が、地元警察と繰り広げる激しいカーチェイスの末に、逮捕・拘束される一連の場面だ。映像はクーロの運転するクルマの後部座席から撮影した、長回しの視点ショットで描写されていて、最近では『パワーレンジャー』(2017)の冒頭シーンを彷彿させる場面だ。すべての発端を描いたこのオープニングは観客に数少ない(というか唯一の)派手な映像を見せている

全編に流れる淡々としたムードと、荒野を行くロード・ムービー的なノリ、どこか西部劇のような渋いアプローチを感じ取ることが出来る。物語が進むにつれ、共に行動することになるクーロとホセのコンビからは、ある種のバディ・ムービー的側面も覗かせている。

まるで抑揚のない単調なストーリーではあるが、なぜか自然と引き込まれてしまう不思議な力を持った作品だ。静かに動き出した復讐の計画、そこから派生する“必然的”なラブストーリーにも注目したい。

主演俳優の物静かな演技

物静かで風変わりな男“ホセ”を演じるのは、スペインの人気俳優アントニオ・デ・ラ・トーレだ。『マーシュランド』では本作の監督であるラウール・アレバロとの共演経験もあり、スペインの映画祭、映画賞では多くの賞に輝いている。同国内では割と名の通った名優、演技派俳優のひとりだ。

主人公のホセは口数が少ないだけでなく、感情をあまり表には出さない。もちろん彼に与えられた台詞も決して多くはない。そのため、彼の感情を汲み取るには鋭い“眼孔”から察するほかないのである

© La Canica Films S.L.U.,Agosto,la pelicula A.I.E 2016

劇中では、感情を隠しながらも徐々に怒りが抑えきれぬといった恐ろしい眼力を見せ、ある時はそっと機会を狙うような怪しげな視線を投げかけるなど、まさに“物言わぬ演技”をこれでもかと見せつけている。無表情を貫き通すホセの感情はすべて“眼”から放出されているのだ

ここまで難しい役柄を演じたアントニオ・デ・ラ・トーレ、彼の名前を覚えておいても損はないだろう。

復讐と怒り、そして家族

本作が掲げる最大のテーマは復讐だ。逮捕された運転手役のクーロが刑期を終えて出所を果たすところで物語は大きく動き出す。“ある復讐の計画”を実行に移すホセだが、その企ては計画的に見えて実は無計画な、衝動的な復讐に思えてならなかった

そして、ホセの復讐は次第に抑えきれぬ強い怒りへと変貌していく。なにか執着心に近いような、自分で自分の退路を断ち切ったとも言うべきか、「ここまで来たらやり遂げるぞ」という断固とした堅い意志に操られているようだった。そして、なぜ彼はここまで寡黙なのか。答えは彼を復讐へと走らせた強い怒りと執念にあるのかも知れない。

© La Canica Films S.L.U.,Agosto,la pelicula A.I.E 2016

そもそも、本作の原題“Tarde para la ira”には「怒り」という言葉が含まれている。復讐の根底に潜む“怒り”こそが、この作品に流れている真のテーマであると言える。

さらに、この映画には家族(そして家族愛)というテーマも込められている。出所したクーロには妻のアナ(ルス・ディアス)と一人息子がいるのだが、ホセの企てに巻き込まれていく夫妻は期せずして家族愛を取り戻すことになる。最初は粗暴でワルい男のイメージだったクーロも、ホセと行動を共にする中で徐々に家族思いの割とマジメな男に変貌していくのが面白い。映画は復讐から怒り、そして家族の愛へと流れていくのだ。

映画『静かなる復讐』はオンライン上の映画館「デジタルスクリーン」にて上映中。

【デジタルスクリーン】ウェブサイトはこちら

【静かなる復讐】上映ページはこちら

※現在、PCのみで視聴可能です。

About the author

Hayato Otsuki

1993年5月生まれ、北海道札幌市出身。ライター、編集者。2016年にライター業をスタートし、現在はコラム、映画評などを様々なメディアに寄稿。作り手のメッセージを俯瞰的に読み取ることで、その作品本来の意図を鋭く分析、解説する。執筆媒体は「THE RIVER」「海外ドラマboard」など。得意分野はアクション、ファンタジー。